路線バス運転シミュレータ開発記

OMSIを使って路線バスの運転シミュレータを製作しています。備忘録的にゆるーく書いていきたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

実車の運転では解決しない問題

本題に入る前に一つ書き記しておきたいことがあります。それは、どうしてわざわざ自前で運転シミュレータを開発する必要があるのかということです。過去に「実車を運転できればそれで良いのではないか?」という疑問をよくぶつけられたので、それに対して私が考えていることを記します。ほとんど独り言に近いようなことを大袈裟に論じているだけなので、軽く読み流していただければ幸いです(;^ω^)

私が最初に運転シミュレータを開発しようと考えたきっかけは「開発の契機とこれまでの経緯(その1) - 路線バス運転シミュレータ開発記」で書いた通り、博物館などにある本格的な運転シミュレータをどうにかして自宅で体験できるようにならないかということでした。大勢の見学者がいる場所では長い時間占有するわけにもいかないですし、実際1人1区間のみというように決まっている場合が多いです。また、博物館などでは鉄道の運転シミュレータが設置されている例は多いですが、路線バスや路面電車のシミュレータというのはほとんど見かけないので、そういったものがそもそも存在しない以上、自作するよりほかないという結論になってしまいます。

他にもいくつか理由はありますが、そもそも実車を運転するには免許が必要だからということがまず挙げられます。鉄道の場合、車両を運転するには動力車操縦者運転免許といって鉄道会社に入社しなければ取得できない資格が必要です。さらに仮に所有していたとしても自分で鉄道施設や車両を所有して運転するということは現実的に無理ですし、もし資金的にそれが可能だったとしてもあらゆる面で法的な部分をクリアしていかなくてはいけません。バスについては、普通の自動車教習所で取得できる大型免許を取得すればよいので、鉄道に比べてかなりハードルが下がると思いますが、それでも自家用バスを所有するとなると保管場所の確保や車両のメンテナンス、給油、外出した場合の駐車など結構大変なことが多いのではないかと思います。ワンマン機器などについては、イベントなどで販売されている廃品を取れつければ良いでしょうが、方向幕のように外部から見えてしまうようなものを取り付けてしまったら間違いなくアウトです。また、ルートについても実際の路線と同じ道路を走るということはできても、起終点の回転所に入ったり、バスターミナルの中に入ったりすることは無理です。

前述の問題は、鉄道であれば例外的に引き込み線内での運転体験などで解決しますが、これですとやはり博物館のような運転シミュレータと同じで1人が長い時間車両を占有するというようなことができませんし、まさか速度を上げて本線を走行するなんていうことは夢のまた夢です。バスの場合、他の交通が流出入しないような閉ざされた私有地内に道路を設けて走らせれば、道路交通法の適用を受けませんから免許がなくても運転でき、かつ車両も私有物なので占有できますが、やはり鉄道と同じで実際と同じ路線を走るということはできません。

では、それらの問題について実車を使って解決するにはどうしたら良いかと考えると、結局のところ鉄道会社の社員になって運転士になるか、あるいはバス会社の社員となって運転手になるという方法があります。しかし、これは仕事であり、趣味とか個人的興味で運転したいといった動機でなれるものではないです。これだと公私混同になってしまいます。

ということで、結局は原点である運転シミュレータに戻るのですが、わざわざ自前で開発しなくとも購入すれば良いのではないかという考えもあります。例えば民生品であれば「電車でGO!!」とか「TrainSimulator」のように専用のコントローラーが発売されているものもありますが、やはり私が欲しいと思ったのはそういったものではなく、博物館や教習所に置いてあるような業務用途のものでした。しかし、自動車教習所に置いてあるようなものは比較的普及しているので個人でも無理をすれば購入できそうな金額(それでも百万単位)にせよ、博物館やJRの研修センターに置いてあるような鉄道の運転シミュレータは、個人で購入することがまず無理な金額(数千万から億単位)です。

では結局どうしたら良いのかというと、すべて自前で運転シミュレーションのプログラムを作成するか、あるいはBVEやOMSIのように比較的自由度が高く、車両のデータや路線のデータを自作できるソフトウェアをベースにして、これをカスタマイズするということが考えられると思います。運転台についても、廃車部品を集めて運転台のモックアップを作成すれば、ゲームの専用コントローラーよりもリアリティのあるものができます。開発にかかる金額についても、業務用の運転シミュレータを購入するよりかはずっと安くできるかと思います。このような考えから、実車を運転するという選択ではなく、運転シミュレータを開発するという選択に至ったわけです。

最後にこのテーマの締めくくりとして特筆しておきたいのが、運転シミュレータは実車の運転と違い物理的制約を受けないということです。そのため、興味本位でイレギュラーな操作をしても車両が故障したり、事故が発生したりということがありません。ここで非常ブレーキをかけたらどの辺で止まるかなど純粋に車両の挙動を観察できるのです。

また、もうすでに存在しなくなった空間を再現することもできます。どういうことかというと、鉄道であれば廃線になった路線を再現して運転するということもできますし、路線バスであれば昔の街並みが再現された中で廃止になった路線を運転するということもできます。道路に特化して考えると、改良によって線形が変わる前の道路や現在は旧道落ちして通行止めになっている道路も走行することができるかと思います。

さらに、存在しなくなった空間を再現できるという利点を応用すると、過去の街並みをデータベース化するようなこともできると考えられます。私はあくまで趣味程度に地元の郷土史を勉強しているのですが、単に地図、写真、映像といった静的な記録だけに留まらず、仮想的な空間の再現という原理を応用して、その中を自由に動き回ることができるというようなインタラクティブで動的な記録方法というのを以前から提唱したいと考えてきました。現在ではGoogleストリートビューという便利なものがありますが、これとは別に運転シミュレータを通して私なりにこれらの実例をブログにて紹介していくことができればと考えている次第です。